2018年5月22日火曜日

「新・大阪学事始」経済編3「戦禍を乗り越えた起業家精神」脇本祐一さん、レジメつき

大阪自由大学連続講座「新・大阪学事始」経済編3
大阪商人の不連続線
――経済のあり方が人間のありようを変える――
下)戦禍を乗り越えた起業家精神                   2018.5.22
講師は、脇本祐一さん(元日経新聞編集委員)


レジメから
大阪商人の不連続線
――経済のあり方が人間のありようを変える――
下)戦禍を乗り越えた起業家精神                   2018.5.22

・不連続線:異質なものが連続する cfサッカーとラグビー
・異質を生み出す断層:明治の維新革命
勤勉革命で高度な経済社会の近世江戸:天下の台所、先進的経済システム、在来語の商業用語
産業革命で欧米列強の仲間入りを目指した明治近代化
・不連続線とお雇い外国人
①英人言語学者チェンバレン:「貧乏人はいるが、貧困は存在しない」(「日本事物誌」)
②司法省顧問の仏人ブスケ:「貧しい人はいても悲惨さはない。彼らは聡明で器用、活動的だが、必要なだけ働いてそれ以上に働こうとしない。生産性の向上を要する近代産業に不適」(「日本見聞記」)
③進化論の紹介と大森貝塚発見の米人動物学者エドワード・モース:「路地で遊ぶ子どもたちには自由・平等のデモクラシー精神がある」(「日本その日その日」)
*明治38年、チェンバレンは同書第5版で「古い日本(江戸期の文明)は死んで去ってしまった」――経済のあり方が人間のありようを変える――

*戦前と戦後の間に断層はない。
三井・三菱・住友・芙蓉(安田、大倉、浅野)・古河など財閥系の一大企業グループの誕生
財閥の持ち株会社に代わって株式の持ち合い・メーンバンク制を柱にした日本型経営が展開

1、国際的視野をもった企業人たち
①戦後の大阪経済復興に奮闘した杉道助
・五綿八社の「八社」で唯一現存する八木商店(現ヤギ)社長、吉田松陰は大叔父
・昭和21年、大阪商工会議所会頭に就任。府・市と経済界で「大阪経済振興連絡協議会」設置。
新幹線・新大阪駅の設置、大阪国際空港や地下鉄網の整備、阪神高速道路公団の設立促進を推進
・昭和29年、ジェトロ(現独立行政法人・日本貿易振興機構)を創設して初代理事長
理事長職は関西財界人が就任(江商、ユニチカ、住銀)。昭和53年から通産官僚の天下りポストに
・政界との関わり:日ソ国交回復交渉全権顧問(鳩山一郎内閣)、日韓会談首席代表(池田内閣)

②日中間のLT貿易を推進した高碕達之助
・製缶会社の東洋製罐を大正6年、大阪市に設立した創業者。昭和33年に通産大臣就任で辞任
・電源開発初代総裁(昭和27年就任、吉田茂の要請):電力不足解消のための半官半民の特殊会社
佐久間ダム(静岡県、天竜川)、田子倉ダム(福島県、只見川)、手取川ダム(石川県)
佐久間ダム:戦後復興のシンボル。東洋一の重力ダム。昭和31年、アメリカ式の工法を導入して10年計画のところを3年で完成
・御母衣(みぼろ)ダム;日本初の大規模ロックフィルダム(庄川上流、荘川村)
関西電力の力量不足から電源開発が担当。昭和36年に完成
「御母衣ダム絶対反対期成同盟死守会」を結成した強固な地域共同体と足かけ7年の補償交渉
「幸福の覚書」(補償交渉に臨む高碕の理念)
*御母衣ダムの建設によって立ち退きの余儀ない状況になった時は、貴殿が現在以上に幸福と考えられる方策を我社は責任をもって樹立し、これを実行するものであることを約束する。
・荘川桜(樹齢450年のエドヒガン移植。桜男の笹部新太郎)「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」
*建設省との対比で際立つ高碕の手腕
川辺川ダム(熊本県、球磨川水系、中断)、下筌・松原ダム(大分県、筑後川支流、蜂の巣城紛争)、沼田ダム(群馬県、利根川本流、断念)
蜂の巣城紛争を闘った室原知幸:「公共事業は法に叶い、理に叶い、情に叶わなければならない」
・LT貿易
昭和37年、中日友好協会会長の寥承志と高碕との間で「日中総合貿易に関する覚書」に調印。両人の頭文字をとってLT。昭和47年の日中国交正常化まで準政府間貿易として日中貿易の中心。

③技術立国に賭けた大原総一郎(クラレ社長、57歳で死去)
・世界初の合成繊維・ビニロンを開発:国産資源を使って国産技術を開発、京大との産学連携
「戦後の日本が生んだもっとも誇れる産業技術」(“ミスター半導体”西澤潤一)
・社運を賭けたビニロンの工業化事業:資本金の6倍もの事業投資。
昭和21年から研究再開。24年、日銀総裁と直談判「日本の繊維産業のための布石。敗戦後の日本人を奮い立たせるための事業」。日本橋三越でビニロン製品の展示即売会。15行による14億円余の協調融資。25年工業化に成功。
・ビニロン・プラントの対中輸出(昭和38年):西側諸国のプラント輸出第一号、LT貿易の目玉
日台関係、中米関係など政治問題化する壁をクリア
「日産30トンのビニロンは1年1人当たりわずか0.017キロの繊維を供給するに過ぎないが、繊維が不足している中国人大衆にとっていささかでも日々の生活の糧となり、戦争で物心両面に荒廃と悲惨をもたらした過去の日本人のために、何ほどかの償いになればということ以外にはない」
・時代を先取りする経営哲学:企業の社会的責任、公害に対する発生者責任の原則
・「美しい経済人」(松下幸之助):一級の文化人(柳宗悦の民芸運動を支援)

2、忘れられた経営者の決断
・黒部ダム(昭和38年完成)の建設を断行した関電社長の太田垣士郎の経営者観
「九分九厘まで安全とわかっている仕事は誰でもできる。安全度の七分で着手するか、八分まで待つか、危険度をいかに克服スルカトいう点に経営者の手腕がかかっている」
・帝王学の「井植学校」
昭和37年に三洋電機の創業者の井植歳男が宝塚市の山荘を開放して2ヶ月に1回開催。若手経営者が経営観、人生哲学を披露する。メンバーは石橋信夫(大和ハウス工業)、中内功(ダイエー)、佐治敬三(サントリー)、山田稔(ダイキン工業)、森下泰(森下仁丹)ら
・シャープ社長佐伯旭の英断:「千里から天理へ」
組み立て工場から総合エレクトロニクス企業に。大阪万博の出展をやめて天理に液晶工場・研究所に投資、ハヤカッタ電機から「技術のシャープ」
カシオとの電卓競争に勝利、カメラ付き携帯電話、液晶テレビ→堺に世界最大の液晶パネル工場

3、1995年の断層:・阪神大震災/オウムの地下鉄サリン、ウインドウズ95の登場
・グローバリゼーションが世界を席巻:「近代」の行き詰まりを象徴、格差の発見
「資本主義はその成功ゆえに自壊する」(シュンペーター)
・インターネットはアダム・スミスの“見えざる手”を実現:すぐれた市場として機能
GAFA=検索エンジン、ネット通販、SNS、デジタルデバイス
・内向きのローカル思考:在阪私鉄vs武田薬品工業の小が大を呑むシャイアー買収
・先行きの不透明感とポール・ヴァレリーの至言
「湖に浮かべたボートを漕ぐように、人は後ろ向きに未来へ入っていく。 目に映るのは過去の風景ばかり、明日の景色は誰も知らない」

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